前回の記事で、継承日本語教育においては、特に日本語の文字環境を整えることが大事というお話をしました。今回は幼児日本語教師のお教室でも家庭でも簡単に取り入れられる【文字探しゲーム】をご紹介します。
教材として用意するものは、物の名前をひらがなやカタカナで書いた言葉カードです。
今回は、お教室の室内に隠れている『言葉カード』を探すという、宝探しのようなゲームです。
子どもの日本語レベルは、さまざまですよね。この文字探しゲームは、文字に興味を持ってもらうことが目的としているので、まだ平仮名や片仮名が読めない段階の子どもでも大丈夫です。
このゲームは、文字を読むことが目的ではないのです。
文字を探すことが目的です。
先ず、言葉カードを用意するのですが、室内にあるものから適当に子ども達が普段の生活やお教室内で見聞きしていて、知っているものが良いですね。
今回は、『つくえ』『いす』『スイッチ』『ほんだな』『とびら』にしました。『れいぞうこ』のカードも作ってしまったのですが、お部屋の外に出なくてはならないので、今回は使いません。
それぞれの言葉カードが2色用意したのですが、例えば兄弟姉妹、複数人のクラスの場合、言葉カードを1枚にしてしまうと、カードの取り合いが起こったりしてトラブルを招きます。全員の子どもがカードを見つけられたという達成感を得てもらうために、はじめは全員分のカードを色分けして用意しておくと良いでしょう。今後、早く見つけた人が勝ち~などの競い合うゲームに展開していくときには、もちろん複数枚同じカードを用意する必要はありません。今回は、文字に興味を持ってもらうという目的もあるため、全員分のカードを用意しています。
言葉カードは、事前に室内の家具などに貼っておけるのであれば貼っておくと良いですね。何気なく目に入るようにお教室ではタームの始め、ご家庭の場合はアクティビティを始める数週間前や数日前から貼っておくと良いかも知れません。長期間、貼っておくことができるのであれば、子ども達に日本語の文字が目に入るようになるので、おススメです。こうして言葉カードを家具に貼っておくと、気が付く子は、直ぐに「これ、なに?」って聞いてくるかも知れません。子どもの観察力というのは、大人が驚くくらい鋭く、よく色んなものを常日頃、見ているものです。もしこちらがアプローチする前に、子どもの方から言葉カードに興味を持って、先生や親に聞いてきてくれたら、それは嬉しい反応ですよね。聞かれたら「『ほんだな』って書いてあるよ。本棚の『なまえ』が書いてあるんだよ。」って年齢に応じて伝えてあげると良いでしょう。「みんなにも名前があるのと同じで、物にも名前があるんだよ」っていうのを知ってもらうところからスタートしていくと、2~3歳児くらいだと「これは?」「これは?」と指差しながらの質問攻撃が始まるかも知れませんが、それも意図的に文字に興味を持たせるよう大人が仕掛けているので、お子様にお付き合い頂ければと思います。
ゲームの準備の際には、上記の画像のように人数分の言葉カードを貼っておきますが、室内の文字環境を整えるために日常的に言葉カード・文字カートを貼っておくのというのであれば、1つのカードで十分ですね。
それでは、文字探しゲームのやりかたです!
このゲームは、何度も言うように【文字に興味を持ってもらう】ことが目的となるので、子ども達がこのゲームに取り組む時点では、平仮名が読めなくても、カタカナがあることすら知らなくても、全く関係ありません。
文字は、子どもからしたら図形みたいなものです。〇、△、□、★、♡と同じように『あ』という文字を見ているかも知れません。先ずは、文字の形をよく見て、観察し、同じ文字を見つけてもらいます。
今回は、小学1~2年生で現地語の英語のアルファベットの読み書きが始まっている子ども達が対象としています。したがって、物に名前があるということは当然知っていて、日本語の読み書きの学習を始めるにあたって、少しずつウォーミングアップをしながら日本語の文字に興味を持ってもらう、日本語の文字でどう物の名前が表現されるのかっていうのを知ってもらうアプローチになります。
① 今回のゲームでは、出題する時に先生または親御さんは、「ほんだな」とか「いす」とか言葉を発しなくて良いです。「これと同じカードをお部屋の中から探して来てね」と子ども達に指示していきましょう。何故、「ほんだな」と言わないのかというと、ここでのアクティビティは既に「ほんだな」「いす」「つくえ」などお題で出される物の名前は既習事項とします。日常生活の中でよく聞いて、見ている物になるので、「ほんだな」と先生が言ってしまうと、文字カードを見ずに、本棚へ一直線に走り、「あった!」と得意げに訴えてくると思います。今回は、「文字」に焦点を当てているので、発声するのは正解が出てからにするとして、出題する時点では物の名前は言わないようにしています。もちろん、臨機応変に応用しながらアクティビティをアレンジすると良いと思うので、みなさんも色んなやり方を試してみると良いと思います。
出題カードを子どもに提示しながら「これと同じカードをお部屋から見つけて来てね」と伝えます。1枚のカードを提示して、クラスや兄弟姉妹が一斉に同じ場所へ向かっていくことを想定すると、これもまたぶつかったりとかしそうだなって思う場合は、上記のように色別でカードが用意されているので、「ケイちゃんは、これと同じカードを探して来てください」とオレンジのカードを提示する。そして、「ジェイくんは、これと同じカードを探して来てください」と緑のカードを提示します。各子どもに別々のお題を出すというのは、これも年齢によって指導者が配慮すれば良いと思いますが、子どもというのは賢いので、周囲の人の行動をよく見ています。本当は、何をするのか理解していなくても、周りのお友達が動いている様子を観察し、何をすれば良いのか読み取って行動するということが出来てしまいます。そうやって真似をしながら色んなことを学んでいくので、とても必要なスキルですから見守ってあげると良いと思います。しかし、指導者や親御さんがその子どもの行動によって、「この子は出来ている」と勘違いする時もあります。そういうことも想定し、それぞれの子どもに違うお題を出して、自分で問題を解決してもらう能力を付けていけるよう配慮していくというアプローチ法もあるので使い分けていくと良いですね。
また先生や親のところに出題カードを置いたまま、子どもたちが出題カードをしっかり観察して室内を探索しに行くというやり方もありですし、年齢が小さい子や、まだ文字に触れたばかりで文字の識別が難しい、覚えられないだろうなっていう子どもの場合には、出題カードを手渡し、自分でカードを持ってそのカードと同じ文字が書かれたカードを部屋の中から探すという方法にすると良いでしょう。ここは、子どものレベルに応じて対応していくと良いですね。
② 子ども達がカードを見つけたら、カードを剥がして持ってこれるようにしても良いでしょうし、見つけた場所を先生に教えに来てもらうという方法でも良いと思います。
今回は、引っかけ用の言葉カードは入れていませんが、子ども達の文字への興味が出てきて、文字の識別トレーニングを強化する際には、引っかけカードを入れておくのも良いですよ。例えば、『つえく』『ほんたな』『こす』『スノッチ』『とひら』など、1文字だけちょっと違う言葉カードを引っ掻けカードとして入れておくと、ゲームも盛り上がります。
③ 全員が1つめの出題カードと同じカードをそれぞれ持ち帰って来たら、そのカードが何のカードか答え合わせをしていきます。先生が「ケイちゃんのカードは、どこにありましたか」と質問すると、カードが貼ってあった椅子の方を指差して「いす」と答えました。そして、先生が「ケイちゃん、すごいね。そう、これには『いす』と椅子の名前が書いてあります。」と伝えながら、『いす』のカードをしっかり子ども達全員に見せていきます。ここで、平仮名、片仮名の文字を見せながら、1文字1音であることを子ども達にわかるよう、『いす』のカードを見せて、指で1文字ずつ示しながら「い・す」と言いましょう。1文字1音って気付かせること、これもとても大事です。
そして、次に「ジェイ君のカードは、どこにありましたか」と質問し、ジェイ君が言葉を発することなく指差しだけで、あっちとカードがあった方を示しました。そこで先生は、「どこかな。先生を連れて行って」と言って、その場所を教えてもらいます。そして、「ジェイ君、これ何て言うか知ってる?」と扉を開けて聞いてみると、ちょっとわからない様子。先生「ちょっと難しかったね。ケイちゃんはわかるかな?」と聞いてみると「ドア」とケイちゃんが答えました。そこで先生が「そうだね、ドアとも言うね」。そしてジェイ君に「文字の数を数えてみてくれる?」と頼むと、ジェイ君が「いち、に、さん、3こ」と答えてくれました。先生が「そうだね、3つの文字がここにあるけど、『ドア』だと2つの音だから、ここに書いてある言葉は『ドア』ではないんだよ。難しいから先生が教えてあげるね。これは、『とびら』って言うの」と言って、指で文字を1つずつ指しながら伝えます。
④ 次のお題です。。。ということで、また2人の子ども達に出題して、同じように同じ文字を探して戻ってきてもらい、言葉カードの確認。そうやってゲームが進んでいくと、ケイちゃんのお題カードに『とびら』が出てきました。さっき、『ドア』って答えていたケイちゃんは、『とびら』を覚えているのかなって思いながら見守っていると、新しく学んだ単語というのは印象が強いのか、一目散に『とびら』のカードをとりに行きました。場所は覚えていたのかなって思いつつも、「ケイちゃん、これと同じ文字カードはどこにありましたか」と質問すると、あっちとキャビネットの方を指差して、自信満々に「とびら!!」って答えてくれました。ジェイ君も僕だってわかってるよっていう様子で「とびら」って発声してくれたので、2人にとって「とびら」という単語がこの日の新しい単語の習得になったようです。
⑤ 同じ日に行わなくても良いのですが、文字探しゲームでお題カードと同じカードを室内から探して持ってくるということができるようになってきたら、次は物に名札を付けようゲームに展開していきます。先生も生徒たちも自分の名前の名札を付けて、今度は物に名札を付けてあげようというアクティビティです。先程使ったお題カードを提示して、子ども達が持っている言葉カードの名札を物に付けてあげる(元に戻す)という作業になります。ここは、2人で協力し合いながらやっても良いと思うので、『ほんだな』『スイッチ』『とびら』『いす』『つくえ』の5枚のカードを自分達で考えて貼りに行きます。二入とも『とびら』は印象的だったのか、すぐに貼りに行く事ができました。『スイッチ』もすぐに貼れました。どうしてかなって思ったのですが、このカードだけがカタカナ表記になっているので、他とは違うということを子ども達が認識していたのでしょう。そこで、子ども達に「このカードは覚えやすかったの?」って聞いてみたら、小さい『ッ』を指差して、どうやら視覚でしっかりカードを観察し、他のカードには無い促音に注目したということでした。素晴らしい!
わからないカードは、先生に聞きに来て良いよって伝えておいたので、直ぐに子ども達が「先生、これ」と『ほんだな』のカードを出して来たので、先生は手拍子で4拍叩いて「ほんだな」を音で表現しました。日ごろから「絵本は、本棚にお片付けしましょう」と聞いている子ども達は、さすがです。4拍の手拍子でピンと閃いたようで、「ほんだな!」と叫んで、貼りに行きました。
今回の文字探しゲームでは、文字を観察して同じ形、同じ並びの単語を探すというものでした。また、ひらがなとカタカナの清音は1文字1音になっているというということにも気が付いてもらえるようなアプローチも入っていました。色んな言葉カードを使ってゲームを進めていくうちに、「このカードのこの文字と、あのカードのあの文字が同じ」と気がついたり、「いす」の『い』と「いちご」の『い』が同じだと気がついて行きます。そうすると色んな場所で文字探しが始まり、文字を読むというトレーニングが着々と積まれていくようになります。やがて、「い」と発声する音は、『い』という文字で表記できるということが理解できると、自分の発する言葉を文字で表記したいという気持ちが湧き、文字を書くというモチベーションに繋げていけるようになります。
KJLTIA(幼児日本語教師協会)の幼児日本語教師養成コースでは、理論的なことも実際のレッスンで役立つことも学んでもらう内容になっています。「子どもの日本語教育を小さい頃からやっておけば良かった~」と後悔している親御さんの声も時々聞きます。ご夫婦それぞれの母語が異なる場合、お子様は2つの母語を持つことになります。
10月18日(月)からのKJLTIAの幼児日本語教師養成コース(オンライン基礎コース)が始まります。コース内で子どもの言語発達やバイリンガルのことなど学んでみませんか?
興味のある方は、是非、お問合せ下さい。